圏論における稠密部分圏(Dense Subcategories)の包括的解説

はじめに
本稿では、圏論における基礎的かつ極めて強力な概念の一つである「稠密部分圏 (dense subcategory)」、より一般には「稠密関手 (dense functor)」について、その定義、基礎となる理論、同値性の完全な証明、そして数学の諸分野(代数学、幾何学、トポス理論、計算機科学)にわたる20個の具体的な応用例を詳細に解説します。ある部分圏が稠密であるという事実は、幾何学的には「空間が局所的なパッチの貼り合わせで構成できること」、代数学的には「任意の代数系が自由代数の商や極限として表現できること」に対応しており、大域的な対象を扱いやすい基本ブロックに分解して研究するための普遍的な基盤を提供します。本稿はすべて自己完結的 (self-contained) に構成されています。

1. 基礎概念の準備

稠密性の厳密な定義に踏み込む前に、必要となる圏論の基礎概念を整理する。これにより、本稿全体の記述を自立したものとする。

小さな圏 $\mathcal{D}$ から圏 $\mathcal{C}$ への関手 $K: \mathcal{D} \to \mathcal{C}$ および $\mathcal{C}$ の対象 $C$ に対し、コンマ圏 (comma category) $(K \downarrow C)$ とは、以下のように定義される圏である。 また、このコンマ圏から全体圏 $\mathcal{C}$ への自然な忘却関手 (forgetful functor) $F_C: (K \downarrow C) \to \mathcal{C}$ が以下のように定まる。 $$F_C(D, f) = K(D), \quad F_C(g) = K(g)$$
圏 $\mathcal{C}$ の対象 $C$ に対し、$\mathcal{C}$ から集合の圏 $\mathbf{Set}$ への反変関手 $Y(C) = \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(-, C)$ を表現可能前層 (representable presheaf) と呼ぶ。これらを対応させる関手 $$Y: \mathcal{C} \to [\mathcal{C}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}]$$ を米田埋め込み (Yoneda embedding) と呼ぶ。米田の補題 (Yoneda lemma) により、この関手は常に充満忠実 (fully faithful) である。

2. 稠密関手および稠密部分圏の定義

稠密性の定式化には、余極限 (colimit) を用いるアプローチと、制限された米田埋め込みを用いるアプローチの2種類が存在する。これらは完全に同値である。以下では関手 $K: \mathcal{D} \to \mathcal{C}$ の稠密性を定義する。部分圏 $\mathcal{D} \subset \mathcal{C}$ が稠密部分圏であるとは、包含関手 $K: \mathcal{D} \hookrightarrow \mathcal{C}$ が稠密関手であることを意味する。

関手 $K: \mathcal{D} \to \mathcal{C}$ が稠密 (dense) であるとは、以下のいずれかの同値な条件を満たすことである。

条件 1(余極限による定式化)

任意の対象 $C \in \mathcal{C}$ に対し、忘却関手 $F_C: (K \downarrow C) \to \mathcal{C}$ をドメインとする図式を考える。各対象 $(D, f: K(D) \to C)$ から $C$ への射の族 $\lambda_{(D,f)} = f$ は、関手 $F_C$ から定数関手 $\Delta C$ への自然変換(すなわち余錐)をなす。この余錐が $\mathcal{C}$ において普遍性を持つ(すなわち余極限錐である)こと。すなわち、以下が成り立つことである。 $$C \cong \mathrm{colim}_{(D, f) \in (K \downarrow C)} K(D)$$

条件 2(制限された米田埋め込みによる定式化)

関手 $K$ は、$\mathcal{C}$ の各対象 $C$ に対して $\mathcal{D}$ 上の前層を対応させる以下の関手 $\tilde{K}$ を誘導する。 $$\tilde{K}: \mathcal{C} \to [\mathcal{D}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}]$$ $$C \mapsto \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(-), C)$$ この誘導された関手 $\tilde{K}$ が充満忠実 (fully faithful) であること。すなわち、任意の対象 $C, C' \in \mathcal{C}$ に対し、写像 $$\tilde{K}_{C, C'}: \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(C, C') \to \mathrm{Nat}(\tilde{K}(C), \tilde{K}(C'))$$ が全単射となることである。

3. 定義の同値性の完全証明

条件1(余極限による定義)と条件2(充満忠実性による定義)が同値であることを、省略を一切挟まず完全に証明する。この証明により、圏論的稠密性の代数的一面と幾何学的一面が一本の線で結ばれることになる。

関手 $K: \mathcal{D} \to \mathcal{C}$ について、条件1が成り立つことと、条件2が成り立つことは同値である。
まず、条件1(任意の $C$ が標準的な余極限であること)を仮定し、条件2($\tilde{K}$ が充満忠実であること)を導く。
任意の $C, C' \in \mathcal{C}$ を固定する。写像 $\tilde{K}_{C, C'}: \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(C, C') \to \mathrm{Nat}(\tilde{K}(C), \tilde{K}(C'))$ が全単射であることを示せばよい。

(i) 全射性の証明

任意の自然変換 $\alpha: \tilde{K}(C) \implies \tilde{K}(C')$ をとる。自然変換の定義により、各 $D \in \mathcal{D}$ に対して集合の間の写像 $$\alpha_D: \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(D), C) \to \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(D), C')$$ が与えられており、$\mathcal{D}$ の任意の射 $g: D \to D'$ に対して $$\alpha_{D} \circ \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(g), C) = \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(g), C') \circ \alpha_{D'}$$ が成立している。写像のレベルで書き下せば、任意の $f': K(D') \to C$ に対し、 $$\alpha_D(f' \circ K(g)) = \alpha_{D'}(f') \circ K(g)$$ が成り立つ。
ここで、各 $(D, f) \in (K \downarrow C)$ に対し、$\mathcal{C}$ の射 $\mu_{(D,f)}: K(D) \to C'$ を $\mu_{(D,f)} = \alpha_D(f)$ によって定義する。この射の族 $\mu$ が、忘却関手 $F_C: (K \downarrow C) \to \mathcal{C}$ から対象 $C'$ への余錐をなすことを確かめる。$(K \downarrow C)$ の任意の射 $g: (D, f) \to (D', f')$ に対し、$f' \circ K(g) = f$ が満たされている。このとき、 $$\mu_{(D,f)} = \alpha_D(f) = \alpha_D(f' \circ K(g)) = \alpha_{D'}(f') \circ K(g) = \mu_{(D,f')} \circ F_C(g)$$ となり、$\mu$ は確かに余錐となる。
仮定(条件1)より、$C$ と射の族 $\lambda_{(D,f)} = f$ は $F_C$ の余極限錐である。したがって、余極限の普遍性(一意存在性)により、一意な射 $h: C \to C'$ が存在して、すべての $(D, f) \in (K \downarrow C)$ に対し、 $$h \circ \lambda_{(D,f)} = \mu_{(D,f)} \quad \text{すなわち} \quad h \circ f = \alpha_D(f)$$ が成立する。これは、自然変換としての等式 $\tilde{K}(h) = \alpha$ を意味する。よって $\tilde{K}_{C, C'}$ は全射である。

(ii) 単射性の証明

2つの射 $h, h': C \to C'$ が $\tilde{K}(h) = \tilde{K}(h')$ を満たすとする。自然変換の各成分を比較すると、任意の $D \in \mathcal{D}$ および任意の $f: K(D) \to C$ に対し、 $$h \circ f = h' \circ f$$ が成り立つ。これは、射の族 $\nu_{(D,f)} = h \circ f$ が忘却関手 $F_C$ から $C'$ への余錐をなすとき、余極限 $C$ から $C'$ への射の普遍性による一意性から、$h = h'$ でなければならないことを意味する。よって $\tilde{K}_{C, C'}$ は単射である。以上より、条件1から条件2が従う。
逆として、条件2($\tilde{K}$ が充満忠実であること)を仮定し、条件1を導く。
任意の対象 $C \in \mathcal{C}$ を固定する。射の族 $\lambda_{(D,f)} = f$ が忘却関手 $F_C: (K \downarrow C) \to \mathcal{C}$ の余極限錐であることを示す。いま、別の対象 $C'$ と $F_C$ から $C'$ への任意の余錐 $\mu_{(D,f)}: K(D) \to C'$ が与えられたとする。余錐の定義より、$(K \downarrow C)$ の任意の射 $g: (D, f) \to (D', f')$ に対し、$\mu_{(D,f)} = \mu_{(D,f')} \circ K(g)$ が成り立つ。
各 $D \in \mathcal{D}$ に対し、写像 $\alpha_D: \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(D), C) \to \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(D), C')$ を $\alpha_D(f) = \mu_{(D,f)}$ で定義する。これが $\mathcal{D}$ に関して自然変換 $\alpha: \tilde{K}(C) \implies \tilde{K}(C')$ を定めることを確認する。$\mathcal{D}$ の射 $g: D \to D'$ と $f' \in \mathrm{Hom}_{\mathcal{C}}(K(D'), C)$ に対し、 $$\alpha_D(f' \circ K(g)) = \mu_{(D, f' \circ K(g))}$$ であるが、$g$ は $(K \downarrow C)$ において $(D, f' \circ K(g))$ から $(D', f')$ への射とみなせるため、余錐 $\mu$ の普遍性から、 $$\mu_{(D, f' \circ K(g))} = \mu_{(D', f')} \circ K(g) = \alpha_{D'}(f') \circ K(g)$$ が成り立つ。したがって $\alpha$ は自然変換である。
ここで仮定(条件2)より、$\tilde{K}$ は充満忠実であるため、全単射 $\tilde{K}_{C, C'}$ を通じて、$\tilde{K}(h) = \alpha$ となる一意な射 $h: C \to C'$ が存在する。各成分の定義をたどれば、任意の $(D, f)$ に対し、 $$h \circ f = \alpha_D(f) = \mu_{(D,f)}$$ が成り立つ。さらに、このような射 $h$ の一意性は $\tilde{K}_{C, C'}$ の単射性から直ちに保障される。したがって、$C$ は $F_C$ の余極限であり、条件1が成り立つ。

4. 具体的応用例(20選)の詳細な解説

ここからは、特に有用と考えられる稠密部分圏(および稠密関手)の応用例を20個挙げる。各例について、全体圏、部分圏、および稠密性が成り立つ仕組みを詳細に記述する。

1. 前層の圏における表現可能前層(稠密性定理)

2. 集合の圏 $\mathbf{Set}$ における単集合 $\{\mathbf{1}\}$

3. 集合 of 圏 $\mathbf{Set}$ における有限集合の圏 $\mathbf{FinSet}$

4. 単体的集合の圏 $\mathbf{sSet}$ における単体圏 $\Delta$

5. スキームの圏 $\mathbf{Sch}$ におけるアフィンスキームの圏 $\mathbf{Aff}$

6. ベクトル空間の圏 $\mathbf{Vect}_k$ における有限次元ベクトル空間の圏 $\mathbf{fdVect}_k$

7. 局所有限表示可能圏における有限表示可能対象の圏

8. 多様体の圏 $\mathbf{Man}$ におけるユークリッド空間の圏 $\mathbf{Euc}$

9. 代数系の圏における有限生成自由代数の圏(Lawvere理論)

10. 任意の圏 $\mathcal{C}$ とそのKaroubi包絡 $\mathrm{Split}(\mathcal{C})$

11. 環上の加群の圏 $\mathbf{Mod}_R$ における「環 $R$ 自身」

12. 位相空間の開集合の圏 $\mathcal{O}(X)$ における「開基」

13. グラフの圏 $\mathbf{Graph}$ における「頂点」と「辺」

14. Grothendieckトポス(層の圏)における「表現可能層」

15. 立方体的集合の圏 $\mathbf{cSet}$ における立方体圏 $\square$

16. 小さな圏の圏 $\mathbf{Cat}$ における単体圏 $\Delta$

17. 球体的集合の圏 $\mathbf{GSet}$ における球体圏 $\mathbb{G}$

18. CW複体の圏における「基本胞体」

19. 鎖複体の圏 $\mathbf{Ch}(R)$ における「鎖円板」と「鎖球面」

20. 領域理論における「完備半順序集合」と「コンパクト要素」

5. 参考文献